【南アルプス】聖岳から赤石岳3泊4日 前編

北アルプス北部に比べアクセスが不便な南アルプス南部、日本の秘境と呼んでも差し支えない山域です。今回は聖岳から赤石岳を歩いてきました。深い亜高山帯の森の奥に聳える高峰は登山者を惹きつけてやまないのです。

登山コース概要

山と高原地図ホーダイappより引用
山と高原地図ホーダイappより引用

1日目

夏期臨時駐車場の中に設置された簡易トイレ
夏期臨時駐車場の中に設置された簡易トイレ
往路は登山バス毎日あるぺん号を利用しました。夜行バスは比較的寝られるたちですが、終盤の悪路に揺さぶられちょっと寝不足な状態で、畑薙第一ダム夏期臨時駐車場に到着します。バス停にはベンチと水場、臨時駐車場内にお手洗いがあります。登山口までは特殊東海フォレストが運行する送迎バスでの移動となります。あるぺん号は5時50分に到着しますが朝一のバスは7時30分まで来ません。待機時間が長い。

と、思われましたが登山客が多いときは臨時便が出るようです。6時45分、臨時便に乗り込みます。送迎バスは特殊東海フォレスト経営の山小屋に宿泊しないと利用できません。何せ送迎バスですから。そして、事前予約が必要です。山小屋の予約をするときに一緒にバスも予約しておきましょう。

新しく作られた割に崩れかかっている登山道
新しく作られた割に崩れかかっている登山道
送迎バスに揺られること1時間。聖岳登山口で下ろして貰えました。歩き出しから九十九折りの急登となります。尾根に乗ると登山道が一部新しく作り直されていました。再び尾根から外れ、トラバースに入ります。作り直されたわりに崩れかかっている場所もあり、後発の登山者が沢に入って行こうとするのを別の登山者が止めていました。新しい道がGPSアプリに反映されてなかったのかな?登山道は常に変わるので100%GPSアプリを信用せず地形を読みルートファインディングして進みましょう。

最初の水場で沢水を補給しました。登山地図に水場表記がある場所は湧き出したばかりの沢や上部に登山道がない場所や、山小屋がない場所が多いです。大腸菌などの混入が少ないところを選んでいるわけです。沢がいくつか合流している大きな流れの水は私は基本利用しません。

聖吊橋までは平坦な道となります。崩れている場所はしっかりと補強してありますので安心して歩けます。吊橋を渡った場所は少し広くなっているので休憩を取るのに最適です。近くの岩に腰掛けザックから取り出したトマトに塩を振り齧りつきます。うん、うまい!生野菜は重く潰れないように注意が必要ですが山の中で食べるとダントツに美味しいので歩荷する価値ありです。

さて、ここからまた急登が始まります。登り切ると尾根となり広場となっていますのでここでも休憩を取りました。この辺りがお花摘みがしやすいスポットかなぁと思います。

聖岳が見えるスポットに到着しました。左側が聖岳、右が奥聖となります。この先はトラバース道が続きます。ところどころ道が荒れています。虎ロープが張られていますが、張りが緩いのであまり頼りになりません。滑る落ちると危ないので注意を払いながら足を運びました。

滝見台からは細く流れ落ちる滝を幾つも見ることが出来ます。切り立った場所にありますが腰を下ろして休憩するスペースは十分にあります。ここで小休止。

聖平小屋の手前までくると勾配がなくなります。左手には沢の流れも見えます。金属製の橋を渡ると沢と並行に歩く道となります。この辺りは大雨が来ると周りの枯れ沢から水が流れ込んできて危ないと思われます。手前にも幾つか沢出合のトラバースがありました。雨が強いときは無理に歩くのは止めた方が良いコースかと思います。

聖平小屋に到着しました。小屋は部屋の中央が板張りの通路で左右が高く寝床となっていました。南アルプスではこのような造りの小屋が多い気がします。真ん中が土間で左右が板張り、大門沢小屋や今は取り壊された椹島ロッジ登山小屋もこの造りです。トイレは外です。ちょっと歩くので雨の時はトイレに行くとき傘が必要。トイレはテントサイトに近いので聖平小屋はテント泊向きな場所かもしれません。

私は小屋の前ではなく沢を渡った人気の少ないサイトに張りました。人が通る場所は夜中トイレに行く登山者のヘッドランプの灯りが入り込んで眩しいです。トイレは遠くても静かで落ち着く場所を選んでいつもテントを張ります。

テントを貼り終えたら明日の天候をチェックしに行きます。小屋から5分ほど上がった場所は携帯の電波が入ります。天気予報は明日は快晴、翌日は曇りで天候が不安定となっていました。南で台風が発生しています。進路によっては明後日くらいから風の影響が出てきそうです。予定を変更するか迷いました。晴れは明日のみ、空身で聖岳まで登ってピストンで椹島まで行くか…。それとも予定通り赤石岳を回るか…。

明日の朝に予定を決めることにして夕ごはんとします。メニューはコンビニ惣菜と胡瓜に塩して胡麻油とかつお節で揉んだもの。歩荷したワインで一杯やりながら静かな初日の夜を迎えました。

2日目

早立ちする予定でいましたが、わりと寝過ごして朝を迎えています。予定通り縦走することに決めて出発です。テントは既に半分ほど撤収されていました。電波が通る湿地を抜けると登りがきつくなり、またしばらく樹林が続きます。傾斜が変化するので飽きずに登れる場所でした。


小聖からようやく森林限界を迎えます。長かった亜高山帯が終わり高山の風景を楽しめるようになります。眼前にはどっしりと聖岳が構えています。空気が澄み富士山もすっきりと見えました。


急なザレが続きます。登りは良いですが下りは足を取られないように注意が必要です。急勾配に息が弾みます。兎岳や上河内岳を眺めながらのんびり進みます。先はまだ長いので体力温存。

光岳方面を臨みます。2000m以上の山岳が連なり圧巻です。南アルプス南部は小屋と小屋の間隔が遠いのでどちらに行くにもコースタイム6時間はかかります。入山も不便なので山慣れした登山者が目立つ山域となります。

聖岳山頂に到着しました。澄んだ空気の向こうに富士山が紺碧に浮かびます。左のピークが奥聖。往復すると40分くらいかかります。空身でいけばもっと短縮できるでしょう。北側には明日登る予定の赤石岳が見えていました。

聖岳より次のピーク兎岳を目指します。最初は緩やかなご褒美縦走路です。しかし、写真から伝わるかと思いますが、ここから大分降ります。登り返しも大変そうです。

2796m標高点の手前辺り。実はここがかなり危ない場所でした。写真では分かりづらいですが傾斜20度以上の砂混じりのザレ、左手は崖、捕まるものなし、という具合です。ずるずると滑る足を踏み込みながら慎重に降りました。万が一滑ると崖側に落ちてしまいます。

兎岳のコルから赤いチャートが目立つようになります。逆光で色が暗くなっていますが岸壁全てがチャートでした。チャートは放散虫の化石のようなものです。何万年という時間をかけて海に降り積ったプランクトンの死骸が、更に途方もない時間をかけて5000m以上浮き上がった姿です。自然の風景は連続性の果てに創り出されます。感慨無量です。

なかなか兎岳の山頂に着きません。何せ前聖から350m降って200m以上登り返すのだから当然かもしれません。そして、暑い。高山は涼しいとは言え日差しを遮る樹木がないので汗が止まりません。

ようやく兎岳避難小屋の標識に辿り着き、ひと休憩です。小さな広場となっているのでゆっくり休めます。避難小屋は標柱から少し離れた場所にありますよ。

自然に還ってしまいそうな佇まいの兎岳避難小屋です。小屋の前にはテントが3張りくらい出来そうなスペースがありました。トイレはなし。

気になる小屋の内部です。6畳ほどの広さがあります。緊急用品は見当たりませんでした。外壁など崩れ落ちている部分もあるので耐久性が少々心配です。本当に緊急事以外はお世話にならないだろうなぁという感じでした。

兎岳山頂から縦走路を眺めます。小兎岳と中盛丸山が見えています。ここから100m以上のアップダウンが続きます。聖岳から百間洞は体力が必要なコースですね。途中、稜線を降りた場所に水場が一箇所あります。涸れることもあるようですが今回は湧いていました。

小兎岳を越え中盛丸山を目指します。目の前にドーンと構えている中盛丸山のピーク。コルから150m登り返しです。山頂へは尾根沿いに上がった後、西側へ巻きます。小さなゴーロ帯があり最後が急登となります。この辺りで身体の火照りを感じました。熱中症の兆候を感じたので水分を取りペースを落として歩くことにしました。

中盛丸山を降りコルの分岐。ここから百間洞山の家へは250mほど降ります。残りわずかです。標高が下げるとハイマツは消えてカンバ帯に入りました。

後半はペースダウンしつつ百間洞山の家へ到着しました。本日は小屋泊です。夕食は2回転目なので少し時間がありました。小屋の前のベンチテーブルで残りのワインを頂きます。トマトがまだ残っていたので切って塩を降り、ごま油をかけておつまみにしました。谷間から聖岳が見えますよ。

・百間洞山の家
聖岳と赤石岳の縦走路に建つ山小屋です。沢沿いにあるため電波が入りません。テント場は5分ほど離れた場所にあります。頼りない木橋を渡って小屋に戻るので夜中にお手洗いに行くときは川ポチャしないように注意が必要です。山小屋の前にはベンチテーブルがいくつかあって寛げるようになっています。お菓子類は受付カウンターで販売されています。そのほかの設備は自炊室や更衣室がありました。大きくもなく小さくもないサイズ感がとても落ち着きます。名物は夕食の豚カツです。ソースか大根おろしポン酢を選べるのがポイント高し。


<3日目に続く>