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「木を知る・木に学ぶ」石井誠治(著)

童謡のふるさとの歌詞を覚えていますか。ウサギを追ったりできる山、コブナを釣ったりできる川。都会ちかくに住む私の身の回りにはありませんでした。ノコギリ屋根の工場。もくもくと湯気を吐き出す高い煙突。そんな風景の中で過ごしてきました。150年ほど前まで人は自然との関わり合いの中で暮らしてきたことがまるで別世界の出来事のようです。

本書では文字をもたず大きな争いを起こさず1万年という長いときを森とともに生きてきた縄文人たちのことを引きながら現代の私たちの言葉との繋がりを伝えています。

その後、近代に至るまで木がどのように使われてきたのかを身近なヒノキやスギの話を交えて書かれています。江戸時代に書かれた「五街道取締書物類寄」で東海道や中山道といった参勤交代で使われた道にどのような樹木を植えるか、その管理をどうするかなど細かなルールがあったことも知ることができます。

心惹かれるエピソードとしては、長野県小野地区には珍しいシダレグリの群生の話があります。本来、樹木の枝は上向きに陽を求めて伸びるほうが光合成をするのに効率が良いのです。枝垂(しだ)れる特性は、遺伝的に劣勢で自然の中で淘汰されていく運命にあります。小野のシダレグリは600年もの長い間、その土地の人の手で守られ現代に伝わっています。


普段は意識しない樹木との関わりを見直す機会となるそんな一冊です。