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「武四郎千島日誌」榊原正文(著)

松浦武四郎という人物を知っていますか。幕末に北海道に渡ってアイヌ文化や地名を取材したルポライターです。江戸時代は自由に国境を越えることが出来ない時代だったのであるときには商人、そしてまたあるときには医者の助手に変装しながら三度も蝦夷地を訪れます。現在、北海道のあちこちにアイヌ語の地名が残っているのはこの武四郎のおかげとも言えます。

 

千島日誌は三回目に蝦夷を訪れたときの日記です。東沿岸部を船で回りながらクナシリ・エトロフ島を目指しますがヤマセ(東北からの季節風)に阻まれてなかなか思うように進めません。そんな中でもめげることなくマイペースに旅を続ける武四郎。手持ちのひょうたんの酒が切れると仕込み杖からお酒を出して周りにふるまうなどユニークな一面を覗かせます。

 

アイヌを差別しなかった武四郎は現地で目にするアイヌ人への迫害に心を悩ませます。当時、和人とアイヌが食事を共にする風習はなかったのですが武四郎は船の漕ぎ手のアイヌ達とおなじ釜の飯を食べニシパ、ニシパと慕われています。北海道の文化と自然、武四郎のあたたかな人柄が伝わる一冊です。